スポーツ歯科
スポーツ歯科とは何か
スポーツ歯科は、スポーツをしていくうえで口腔内を健全に保つ目的のために最近提唱されている歯科学の一分野です。この新しい歯科領域は、単にスポーツ中の外傷を予防するだけでなく、アスリートのパフォーマンス向上にも密接に関わっています。
現代社会において、健康志向の高まりとともにスポーツ人口は急激に増加しています。それに伴い、スポーツに関連した口腔内の問題も増えており、従来の一般歯科では対応しきれない専門的な知識と技術が求められるようになりました。スポーツ歯科では、予防歯科の概念を基盤として、スポーツ特有の環境下での口腔機能の維持・向上を目指します。
スポーツ外傷の現状と深刻さ
歯や口の周りの外傷には、あごの骨の骨折、歯が折れる(歯冠破折)、歯肉のけがなどがあります。その原因としては主に交通事故、スポーツ、殴打などが挙げられますが、2005年(平成17年)度の調査によると、スポーツに起因した口腔外傷の占める割合は21%と意外に多いことが判明しています。
特に注目すべきは、シートベルトやエアバッグなどの安全装置の普及により交通事故による外傷が減る一方で、スポーツ外傷は大きく増加していることです。これは、スポーツの競技レベル向上に伴う身体接触の激化や、新しいスポーツの登場、参加人口の増加が影響しています。
ラグビー、アメリカンフットボール、アイスホッケー、格闘技などのコンタクトスポーツでは、相手との激しい身体接触により口腔外傷のリスクが特に高くなります。また、野球、サッカー、バスケットボールなどの非コンタクトスポーツでも、ボールや他の選手との偶発的な接触により外傷が発生することがあります。
マウスピースの重要性と効果
このような背景から、とくにコンタクトスポーツではマウスピースを使用するのが時代の流れになっています。マウスピースは単なる歯の保護具ではなく、科学的に設計された口腔保護装置です。
マウスピースの主な効果には以下があります。まず、直接的な衝撃から歯を守る外傷予防効果があります。上下の歯が激しく咬み合わされることを防ぎ、歯の破折や脱落を予防します。次に、下あごへの衝撃を分散させることで、顎関節への負担を軽減し、あごの骨折リスクを低下させます。さらに、舌や頬粘膜の咬傷を防ぐ軟組織保護効果も重要です。
近年の研究では、適切に製作されたマウスピースが脳震盪の予防にも効果があることが示されています。これは、マウスピースが下あごの位置を安定させることで、頭部への衝撃伝達を軽減するメカニズムによるものと考えられています。
スポーツパフォーマンスと
口腔機能の関係
スポーツ歯科のもう一つの重要な側面は、口腔機能がスポーツパフォーマンスに与える影響です。咬み合わせ(咬合)は、全身のバランスや筋力発揮に密接に関わっています。
適切な咬合により、体幹の安定性が向上し、瞬発力やバランス感覚の向上が期待できます。これは、咬筋や側頭筋といった咀嚼筋が、頸部や肩甲帯の筋肉と筋膜を介して連結しているためです。また、集中力や精神的安定にも咬合が影響することが報告されており、アスリートにとって理想的な咬合の確立は競技力向上の重要な要素となっています。
よくある質問
- Q.マウスピースは市販品で十分ですか?
- A.市販品は応急的な使用には便利ですが、歯科医院で製作するカスタムメイドのマウスピースの方が、フィット感、保護効果、装着感すべてにおいて優れています。特に継続的にスポーツを行う方には、個人の歯型に合わせた製作をお勧めします。
- Q.どのようなスポーツでマウスピースが必要ですか?
- A.コンタクトスポーツ(ラグビー、格闘技など)では必須ですが、野球、サッカー、バスケットボールなどでも使用をお勧めします。転倒のリスクがあるスケートボードやスキーでも有効です。
- Q.マウスピースをつけると話しにくくなりませんか?
- A.適切に製作されたマウスピースであれば、慣れることで日常的な会話に大きな支障はありません。競技中のコミュニケーションも十分可能です。
- Q.スポーツ歯科の診療を受けるタイミングはいつが良いですか?
- A.競技シーズン前の準備期間中がベストです。また、口腔外傷を経験した場合や、咬み合わせに違和感を感じた時は、すぐに専門医にご相談ください。























