小児歯科

小児歯科の重要性と特徴

小児歯科の重要性と特徴

小児歯科は、単にお子様の虫歯を治療するだけではありません。乳歯の萌出から永久歯への生え変わり、そして顎の成長発育まで、お子様の口腔全体の健康を長期的に管理する専門分野です。

乳歯は「どうせ抜けるから」と軽視されがちですが、実は永久歯の健康に大きく影響します。乳歯の根の下では永久歯が形成されており、乳歯に重篤な虫歯や感染が起こると、永久歯の形成異常や変色、さらには萌出位置の異常を引き起こす可能性があります。これを「継承永久歯への影響」と呼びます。

また、乳歯は正しい発音の習得や、顎の正常な成長発育にも重要な役割を果たしています。特に前歯部は構音機能に、臼歯部は咀嚼機能の発達に直接関わっています。乳歯を健康に保つことは、お子様の全身の成長発育を支える基盤となるのです。

小児歯科では、お子様の年齢や発達段階に応じた治療アプローチを行います。成人とは異なり、お子様は恐怖心や不安感が強く、治療への協力度も個人差が大きいため、心理的配慮と段階的な慣らし(Tell-Show-Do法など)が重要になります。

年齢別の口腔管理と
ケアのポイント

0~2歳:基礎づくりの時期

この時期は乳歯の萌出が始まり、口腔衛生習慣の基礎を築く重要な時期です。生後6ヶ月頃から下顎中切歯が萌出し始め、2歳頃までに20本の乳歯が揃います。

萌出直後の歯は歯質が未熟で酸に対する抵抗性が低いため、特に注意深いケアが必要です。また、この時期に虫歯菌(ミュータンス連鎖球菌)の感染が起こりやすく、「感染の窓」と呼ばれる19~31ヶ月の時期は特に重要です。保護者からの垂直感染を防ぐため、食器の共有を避け、保護者自身の口腔衛生管理も大切になります。

歯磨きは、最初はガーゼで拭き取ることから始め、徐々に小さな歯ブラシに慣れさせていきます。この時期のフッ化物応用として、500ppm程度の低濃度フッ化物配合歯磨剤の使用が推奨されています。

赤ちゃん

3~5歳:習慣定着と予防の時期

乳歯列が完成し、本格的な虫歯予防と歯磨き習慣の確立が重要になる時期です。この時期のお子様は自我が発達し、「自分でやりたい」という気持ちが強くなりますが、まだ手指の巧緻性が未発達のため、保護者による仕上げ磨きが必須です。

奥歯の咬合面にある小窩裂溝(しょうかれっこう)は、歯ブラシが届きにくく虫歯のリスクが高い部位です。この部位に対しては、シーラント(予防的樹脂充填)という処置が効果的です。シーラントは、歯を削ることなく樹脂で小窩裂溝を封鎖する予防処置で、虫歯リスクを大幅に減少させることができます。

また、この時期からフッ化物の応用がより重要になります。歯科医院でのフッ化物塗布(9000ppm程度の高濃度フッ化物)を3~6ヶ月に1回受けることで、歯質の耐酸性を向上させ、初期虫歯の再石灰化を促進できます。

幼児

6~12歳:混合歯列期の管理

永久歯への生え変わりが始まる混合歯列期は、口腔管理が最も複雑になる時期です。6歳臼歯(第一大臼歯)の萌出から始まり、12歳頃までに前歯と小臼歯の交換が完了します。

6歳臼歯は「歯列の鍵」と呼ばれ、正しい咬合の確立に重要な役割を果たしますが、萌出期は歯肉に覆われていることが多く、清掃が困難で虫歯のリスクが非常に高い歯でもあります。萌出期の6歳臼歯には、積極的なフッ化物応用とシーラント処置が推奨されます。

この時期は歯の大きさと顎骨の成長のアンバランスから、叢生(歯並びの乱れ)が生じやすい時期でもあります。永久歯の萌出スペースが不足している場合は、早期の矯正治療(第一期治療)の検討が必要になることもあります。

児童

小児期に多い口腔疾患と対処法

虫歯の特徴と進行パターン

小児の虫歯は成人と比べて進行が早く、痛みを感じにくいという特徴があります。乳歯は永久歯と比べてエナメル質や象牙質が薄く、歯髄(神経)が大きいため、虫歯が神経に達するまでの時間が短いのです。

特に注意が必要なのは「哺乳瓶虫歯」や「早期幼児虫歯」です。これは、哺乳瓶でのミルクや果汁の長時間摂取、添い寝での授乳などにより、上顎前歯を中心に重篤な虫歯が生じる状態です。この状態では、前歯の大部分が崩壊し、咀嚼機能や構音機能に大きな影響を与える可能性があります。

小児の虫歯治療では、可能な限り歯髄を保存する「歯髄保存療法」を選択します。軽度の歯髄炎であれば、間接歯髄覆髄や直接歯髄覆髄により歯髄の治癒を促し、歯の寿命を延ばすことができます。

外傷への対応

小児期は運動能力の発達に伴い、転倒や衝突による歯の外傷が多発します。特に上顎前歯の外傷は頻度が高く、適切な初期対応が予後を大きく左右します。

歯の完全脱臼が起こった場合、30分以内の再植が成功の鍵となります。歯は乾燥させず、牛乳や生理食塩水に浸けて保存し、できるだけ早く歯科医院を受診することが重要です。歯根膜細胞の生存が再植の成功に直結するため、時間との勝負になります。

乳歯の外傷では、後継永久歯への影響を最小限に抑えることが治療の主目標となります。外傷により乳歯の歯根が後継永久歯の歯胚に損傷を与えると、永久歯の形成異常や萌出異常を引き起こす可能性があるためです。

よくある質問

Q.乳歯の虫歯は治療しなくても
大丈夫ですか?
A.いいえ、乳歯の虫歯も適切な治療が必要です。乳歯の虫歯を放置すると、痛みによる食事の偏り、発音の問題、永久歯の形成異常や萌出位置の異常を引き起こす可能性があります。また、乳歯は永久歯の正しい萌出をガイドする重要な役割があります。
Q.フッ素は安全ですか?
いつから使えますか?
A.適切な濃度で使用すれば安全です。歯が生え始めた時期から、年齢に応じた濃度のフッ化物配合歯磨剤を使用できます。6ヶ月〜2歳は500ppm、3〜5歳は500〜1000ppm、6歳以上は1000〜1500ppmが目安です。使用量は年齢に応じて調整し、うがいができない年齢では使用後に軽く拭き取ります。
Q.歯科医院での治療を嫌がる
子どもへの対応は?
A.お子様の歯科恐怖症は珍しいことではありません。当院では、まず歯科医院の雰囲気に慣れてもらうことから始め、治療器具を見せて説明し、実際に触ってもらう「Tell-Show-Do法」を用いています。無理に治療を進めることはせず、お子様のペースに合わせて段階的に進めていきます。保護者の方も一緒に診療室に入っていただけます。
Q.永久歯が乳歯の後ろから
生えてきました。大丈夫ですか?
A.下顎前歯部でよく見られる現象です。多くの場合、乳歯が自然に抜けるか、簡単な処置で抜歯することで永久歯が正しい位置に移動します。ただし、永久歯の萌出スペースが不足している場合は、矯正治療が必要になることもありますので、早めにご相談ください。
Q.指しゃぶりはいつまでに
止めさせるべきですか?
A.3歳頃までの指しゃぶりは正常な発達過程の一部ですが、4歳以降も続く場合は歯並びや顎の成長に影響する可能性があります。特に永久歯の萌出が始まる6歳以降まで続くと、開咬や上顎前突などの不正咬合の原因となることがあります。自然に止められない場合は、専門的なアドバイスをお求めください。

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